米沢穂信さんの「冬期限定ボンボンショコラ事件」を読みました。
「冬期限定ボンボンショコラ事件」は、米沢穂信さんの小市民シリーズの最終巻です。
前作の「秋季限定栗きんとん事件」の発売から約15年。
小市民シリーズファンが待ち望んだ一冊です。
私も発売を楽しみにしていました!
今作は小鳩君と小佐内さんの中学時代が明かされるなど、ファンとして楽しめる作品でした。
この記事では、「冬期限定ボンボンショコラ事件」あらすじと個人的な感想をまとめています。
小説の内容や過去のシリーズの内容に触れているので、ネタバレが気になる方はご注意ください。
あらすじ
高校三年生の冬。
小市民を志す小鳩君は、同じく小市民を志す同級生の小佐内さんとの下校中に轢き逃げに遭い、意識不明の重体になる。
目を覚ました彼は、自分の右足の骨が折れていることとその年の大学受験は難しいことを聞かされる。
翌日、警察の聴取を受けて眠る小鳩君の枕元には、小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。
小佐内さんは、犯人捜しをしているようだ。
そんな中入院生活を送る小鳩くんは、今回の轢き逃げとどこか似ている中学三年生の夏の事件を思い出す。
小鳩くんと小佐内さんが出会い、互恵関係を結ぶことになったきっかけの苦々しい事件を、小鳩くんは病院のベッドで回想していく――。
感想
20年に渡る小市民シリーズがついに完結
「冬季限定ボンボンショコラ事件」(以下、冬季限定)が発売されると聞いて、私が最初に思ったことが「ついに完結するのか!」です。
小市民シリーズは2004年に「春期限定いちごタルト事件」(以下、春期限定)が発売され、2009年発売の「秋季限定栗きんとん事件」(以下、秋季限定)まで刊行されていました。
秋季限定の終了時点で、小鳩くんと小佐内さんは高校三年生の秋を迎えています。
高校三年生だし、大学受験を控えていることを考えると、話の展開も難しいからもう続編は出ないのかもという気がしていました。
秋季限定でストーリーも良い感じにまとまっていましたしね。
2024年についに今作、「冬季限定ボンボンショコラ事件」が発売されました。
前作の発売から約15年ですよ!
出ないかもと諦めていた部分もあったので、発売はとても嬉しかったです。
発売日に買いに行きましたが、まず本の厚みに驚きました。
ページはなんと、400ページ越え!
本棚に並べたら一目瞭然で、シリーズで一番分厚かったです。
内容も濃く、シリーズ最後の作品として申し分のないボリュームでした。
シリーズ最大の事件にして、衝撃的な導入
今作の事件はなんと、轢き逃げ!
さらに被害者は小鳩くんです。
シリーズの中でも規模の大きい事件です。
春季限定でココアの淹れ方を悩んでいた頃が懐かしいですね。
轢き逃げ事件というだけでも衝撃的ですが、小鳩くんは意識不明の重体になってしまいます。
追い打ちをかけるように、その年の大学受験は難しいとまで言われます。
轢き逃げもショックなのに、受験までできないなんて、ヘビーな展開です。
完結作だけあって、扱う事件も大きいですね。
衝撃的な導入に引き込まれて、一気に読み進めてしまいました。
小鳩くんはどうなるの?
小鳩くんと小佐内さんの中学時代が明かされる
冬季限定では、今まで語られなかった小鳩くんと小佐内さんの中学時代がついに明かされました。
過去の小市民シリーズで、小鳩くんと小佐内さんが小市民を目指すきっかけが中学時代にあることは、たびたび触れられていました。
しかし具体的に何があったかは明らかになってはいませんでした。
だから小鳩くんと小佐内さんの中学時代が気になっている読者は多かったでしょう。
私も気になっていました。
それが冬季限定でついに明かされました。
今作では中学時代に2人が出会い、共に事件を追う様子が描かれています。
出会ったばかりでも、個性全開の2人のやり取りは面白かったです。
あとは、中学時代の小鳩くんの調子に乗っている感じが、読んでいてハラハラしました。
読者は中学時代に何かトラウマがあることは分かっているので、最後に痛い目を見るんだろうとは思っていましたが……。
結果は予想通り、痛い目を見ましたね。
こうなることは分かってはいたけど、見ていて痛々しかったです。
寂しくも希望のあるラスト
今作で私が一番印象に残ったのは、最後の病室で小鳩くんと小佐内さんが話すシーンです。
病室のシーンでは、小佐内さんに「怪我が治ったら行きたいところは?」と尋ねられた小鳩くんは過去に小佐内さんと巡ったスイーツの店と答えます。
答えると同時に、小鳩くんは高校時代の終わりと小佐内さんとの別れを感じています。
「これからはもう、一人なのだから」と語る小鳩くんで、2人の関係の終わりと、シリーズが終わる寂しさがこみ上げてきて、読んでいて切なくなりました。
しかしそんな寂しい雰囲気の中、小佐内さんが以外な発言をします。
志望校を練り直すという小鳩君に対して、小佐内さんは「自分が受験する京都の大学がいいと思う」と言います。
どういうこと?
さらには、「京都に迷路を作って、おいしいお店も探しておくから、わたしを捜してね」と続けます。
別れを予期する小鳩くんに対し、小佐内さんは小鳩くんを待っているようです。
お別れだと思われた2人の関係ですが、再会もありそうな展開です。
シリーズが終わってしまうと思っていましたが、もしかしたら大学生編もあるかもという淡い希望が持てました。
もしシリーズが続かなかったとしても、2人が別れではなく、再会するかもしれないというのは、希望のある綺麗な終わり方だと感じました。
変化した小鳩くんと小佐内さんの関係
冬季限定を読み終わって、小鳩くんと小佐内さんの関係も変わったと思いました。
シリーズを通してよく言われる2人の関係は、「恋愛関係にも依存関係にもないが、互恵関係にある」です。
知らない人からすると「なんのこっちゃ?」となりますが、簡単に言うと高校生活を穏やかに過ごすために、お互いに助け合おうという関係です。
その関係は友人でもないし、恋人でもない、相棒という表現がしっくりくる不思議な関係でした。
この不思議な関係は、高校生活を穏やかに送るための関係なので、高校を卒業したらおしまいです。
冬季限定は高校3年生の冬の話なので、2人の関係も終わるはずでした。
終わるはずだったのですが、上の感想でも触れた最後のシーンで2人の関係に変化が見られます。
最後のシーンで、小佐内さんは小鳩くんに京都に来るように言っています。
さらに「迷路」、つまり「小鳩くんの好きな謎」作っているとも言います。
「自分が居る京都に来て」もストレートですが、さらには小鳩くんの好きな謎まで用意してくれるというのは、なかなか深いです。
個人的には愛を感じます。
対する小鳩くんも、怪我が治ったら小佐内さんと過去に巡ったスイーツの店に行きたいと語っています。
甘い物が得意ではないのに、スイーツ店に行きたいと言ったり、その上苦手なパフェまでも克服しようと考えています。
これも意味深ですよね?
愛でなかったとしても、お互いがこれからも関係を続けたい、必要な存在になったんだと思いました。
「冬期限定ボンボンショコラ事件」あらすじとネタバレ感想のまとめ
米沢穂信さんの「冬期限定ボンボンショコラ事件」は、小市民シリーズの完結作です。
小鳩くんと小佐内さんの中学時代の話や2人の関係の結末など、シリーズファンには必見の内容でした。
小市民シリーズが好きだけど、まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。
シリーズファンには満足の一冊です。
小市民シリーズを読んだことがない人は、ぜひシリーズ作品を読んでみてください。
コミカルな探偵物語で、小鳩くんの語り口が面白くて、楽しく読めるシリーズです。
小市民シリーズを読んでみたいけど、何から読めばいいか迷った人はこちらの記事をどうぞ。
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