恒川光太郎さんの「夜市」を読みました。
「夜市」は、2005年の第12回日本ホラー小説大賞を受賞した作品です。
ホラー小説大賞の作品ですが、恐怖という要素はありません。
妖怪といった、人とはちょっと違う存在が出る、ファンタジー寄りの作品です。
ホラーが苦手な人でも読める作品だと思います。
この記事では「夜市」に収録されている、表題作の「夜市」と書き下ろしの「風の古道」のあらすじと個人的な感想をまとめています。
ものすごいネタバレをしているわけではありませんが、小説の内容に触れているので、ネタバレが気になる方はご注意ください。
あらすじ
夜市のあらすじ
大学生のいずみは、高校時代の同級生だった裕司に「夜市へ行ってみない?」と誘われる。
裕司に連れられて森の中へ行くと、そこには妖怪たちがさまざまな品物を売る不思議な市場「夜市」が開かれていた。
黄泉の河原の石、なんでも斬れる剣、老化が早く進む薬など、夜市では望むものがなんでも手に入るという。
しばらくして夜市から帰ろうとするいずみと裕司だったが、二人は道に迷ってしまう。
帰ることができず、店先で何度も道を尋ねるが「買い物をするまで、帰ることはできない」と同じ答えが返ってくる。
帰る方法を考えるため、前に夜市に来たことがある裕司の話を聞くことにしたいずみ。
小学生の頃、夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買ってしまったと語る裕司。
夜市から帰ることはできたが、裕司は弟を売った罪悪感をずっと抱き続けていた。
そんな裕司が夜市に再び訪れた目的は、弟を買い戻すためだった――。
風の古道のあらすじ
私は7歳のとき、花見にでかけた小金井公園で、父とはぐれてしまった。
声をかけてきた見知らぬおばさんに案内され、未舗装の奇妙な道を通り、なんとか自宅に帰ることができた。
その道が秘密の道だと直感した私は、その道について口にするのを止め、秘密にすることにした。
しかし12歳の夏休み、私は親友のカズキに秘密の道について話してしまう。
その話に興味を持ったカズキと共に、私は再び秘密の道に足を踏み入れる。
最初は楽しく秘密の道を歩いていた二人だが、日が傾いても出口の見えない道に、だんだん焦り出す。
そんなときに見つけた茶店で、茶店の店主と客に話を聞く。
話によると、この道は古道と呼ばれる大昔から日本にある特別な道で、決して足を踏み入れてはいけない場所だと聞かされる。
出口までもまだ遠いため、その日は茶店に泊めさてもらった。
翌日、茶店の客のレンの案内で、私とカズキは出口を目指す。
しかし旅は、思わぬ災厄に見舞われる――。
感想
夜市の感想
不気味だけど、なぜか引き込まれる夜市
この話は、世界観が魅力的でした。
この話の舞台である夜市は、妖怪たちが取引をする場所です。
夜市で取引している品物は、実にさまざま。
なんでも斬れる剣という形のあるものから、野球の才能といった形のないもの、さらには人間の子どもといった、現実世界では考えられないものが取引されています。
現実にないものを、人ならざる者たちが取引している姿は、人の常識を越えた光景です。
その光景は、怖くもありますが、なんだか惹きつけらるものもありました。
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怖いもの見たさのような……?
人ならざる者との取引というと、悪魔の取引のようで恐ろしくもあります。
でも、欲しいものが何でも手に入るのなら、怖いけど行ってみたいような……。
人の興味を引く世界観だと思いました。
老紳士のその後が気になる
夜市でいずみと裕司は、異世界から来た老紳士と出会います。
この老紳士は訳あって、見た目は大人ですが、中身は子どものままでした。
複雑な事情なのに、頼れる家族もいないので、彼のいた世界では想像できないほど苦労したことでしょう。
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とてもハードな人生です。
そんな老紳士は、ある目的のために夜市へ訪れました。
夜市での彼の目的は無事に果たされるのですが、その後が気になります。
目的を果たした老紳士は、彼がいた世界に分かれを告げ、新たな居場所を求めて旅立ちます。
老紳士については、旅立つところまでしか描かれていないので、その後は分かりません。
今まで苦労をしてきた老紳士には幸せになってもらいたいのですが、彼の抱えている事情を考えると、この先も苦労する姿を想像してしまいます。
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願わくば、老紳士の行く末に幸あらんことを。
風の古道の感想
どこか懐かしいノスタルジーな雰囲気
この話は、どこか懐かしいノスタルジーな雰囲気がします。
カズキと共に私が古道を歩く姿は、子どもの一夏の冒険という感じで、どこか懐かしい感じがします。
舗装がされていない古道が舞台ということもあり、古き日本の風景を連想させ、懐かしさに拍車をかけています。
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個人的に好きな世界観です。
思わぬ災厄
古道の出口を目指して、私とカズキとレンは旅を続けていました。
そんな一行に、思わぬ災厄がやってきます。
今までの冒険気分から一転、かなり切迫した雰囲気に追い込まれます。
読んでいて、「どうしてこんなことに……」とやるせない気分になりました。
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予想しなかった、衝撃的な展開でした。
古道で生まれたレン
この話を読んでいて、印象的だった人物がレンです。
レンは私とカズキを案内するために同行しますが、話が進むにつれて、彼の出生や過去についても明かされていきます。
その明かされるレンの出生や過去が、かなり複雑で印象に残りました。
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レンを主人公に、話が書けるかも?
古道で生まれたレンは、外の世界には出ることはできず、古道で生きる運命にあります。
そんなレンの過去の別れのエピソードは、温かくも切ない気持ちになりました。
他にも彼の出生やとある人物の因縁の話など、レンに関しては印象に残るエピソードが多いです。
複雑な事情を持つ魅力的なキャラクターなので、彼を主人公に古道を旅する話があったら、ぜひ読んでみたいと思いました。
「夜市」あらすじとネタバレ感想のまとめ
恒川光太郎さんの「夜市」には、表題作の「夜市」と書き下ろしの「風の古道」が収録されています。
2編とも最後は切ない結末ですが、不思議な世界観が魅力の素敵な作品です。
日常からちょっと離れた、不思議な世界に浸りたい人にはオススメの一冊です。
ファンタジーや童話が好きな人には、心に響くものがあるので、ぜひ読んでみてください。